2016年8月2日掲載

地域貢献最前線

だれもが安心して暮らせるまちへ大学発の防犯ノウハウを地域に還元

人間科学部人間心理学科 西岡 敏成 教授

災害心理学

現場で磨いた実践知をもとに「生き抜く力」のある学生を育てたい

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 「学生によくこう話すんです。どんどん失敗しろ、恥をかけ、笑われろ、と。柔道でも最初に習うのは受け身でしょう。つまり負け方から学ぶ。うまく負ければ、すぐ立ち上がってまた戦えますが、負け方を間違えるとダメージが大きいですからね。大学は人生の受け身を教える場所だと思うんですよ」

 豪快な笑いを交えたエネルギッシュな話術が人を引きつける。日本拳法や柔道で鍛えた堂々たる体躯を揺らしてキャンパスを歩く姿も迫力たっぷりだ。そんな西岡教授の専門は武道、ではなく犯罪心理学である。

 前職は警察官。ある時は刑事として凶悪犯を検挙し、ある時は機動隊員として成田闘争の現場に派遣され、またある時はポートピア'81やワールドカップといった大規模イベントの警備責任者という大役を務める……。約40年間の職業人生で実にさまざまな現場を踏んできた。それらの経験を生かして理論と実践をつなぎ、社会で生き抜く力を育むのが西岡流教育のモットーだ。

 「社会に出れば、暗記した知識を競うだけの学問は要りません。必要なのは『生きた知恵』なんです。一人ひとりの知恵を引き出すために、学生自身にとことん考えさせて意見を引き出すようにしています。授業でもゼミでも『どう思う?』『なぜ?』『じゃあどうすればいい?』と三段階で問い詰める。取り調べで身についたノウハウです(笑)」

 それらの意見やアイデアを論理的にアウトプットできるよう、人を説得するプレゼンテーション力の養成にも力を入れる。学びの成果は現実に生かしてこそ価値があるからだ。 「プレゼンでは、まず結論を言い、その根拠とメリットを挙げ、さらに想定される反対意見への反論を提示することを求めます。どんな分野で社会人になるにせよ、やりたいことを実現するためには絶対に身につけなければならないロジックですから」

 自ら体を動かし、考え、その成果を広く伝えることで現実を変える力にする。そのサイクルを繰り返しながら、社会で求められる自主性と問題解決力が養われるのだ。
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犯罪の起きやすいポイントはどこ?
学生のアイデアで地域の防犯が進化する

 関西国際大学では、学びを地域に還元する「コミュニティスタディ」に力を入れている。地域貢献活動を通じた実習型授業「サービスラーニング」もそんなプログラムの一環だ。  西岡教授も「子どもや高齢者を犯罪から守るまちづくり」をテーマにしたサービスラーニングを担当しており、防犯にまつわる知見を積極的に地域にフィードバックしてきた。

 たとえば2015年には、地元の警察署や区役所からの協力も得て、前年に神戸市長田区で発生した「小1女児殺害事件」の現場を検証するフィールドワークを実施。「犯罪が起きやすい場所」をマッピングした防犯マップを作成し、安全性を高めるための具体的なアイデアも盛り込んで地域住民へプレゼンテーションを行った。その成果は地元自治会に共有され、安全・安心なまちづくりのために役立てられている。「この時、学生からいいアイデアが出たんですよ。地域で子どもを守る取り組みに『子ども110番の家』がありますよね。街でステッカーをよく見かけますから、かなり周知は進んでいると思いますが、実際に駆け込む子どもはほとんどいないそうです。なぜだと思います? おそらく子ども自身の参加意識が低いからです。

 もっと実効性を高める方法がないかと学生に問いかけたところ『子どもが自分でステッカーを手づくりして地域に配ればいい』というアイデアが出たんです。確かに、自分や友達が描いたステッカーを貼ってもらえば、そこにコミュニケーションが生まれて『見知らぬ家』が『知ってる家』になる。地域の人も感心していました」

地域の防犯力を高めるには、制度や仕組みがあるだけでは十分ではない。それに血を通わせる工夫こそが大事なのである。サービスラーニングの取り組みは、そんな工夫を生み出す場になっている。今後も「特殊詐欺被害から地域の高齢者を守る」「子どもの虐待の実態と対策を探る」といったテーマでサービスラーニングに取り組んでいく予定だ。 
 「詐欺の防止をテーマにした回では、振り込め詐欺のさまざまな手口を分析し、学生がその対策をまとめた寸劇を地域で披露して住民を啓発する予定です。今後もさまざまな形で防犯の知識を分かりやすく伝えていきたいと思います」

 実践力を旨とする西岡教授が指導するゼミは、毎年10人前後の警察官をはじめ、非行青少年の社会復帰をサポートする法務教官、企業の危機管理部門スタッフといった職業人を輩出し続けている。安全・安心な地域づくりの発信拠点、実践拠点として、これからもその存在感は大きくなりそうだ。

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KEYWORDS

サービスラーニング 社会貢献活動を実践しながら地域社会の課題を発見し、専門知識やグループワークを通じて解決方法をさぐるプログラム。西岡教授が取り組む「こどもと親を守ろう『虐待』防止対策」のほか「障害のある子どもの余暇活動支援」「地域観光振興」などさまざまなテーマが用意されている。


犯罪が起きやすい場所 雑草や木々が茂った公園のように「日常的に管理されていない、入りやすくて外から見えにくい場所」は犯罪が起こりやすいので、地域で協力して管理していくことが重要だ。定義のあいまいな不審者を漠然と怖がるより、犯罪が起きやすい「場所」をなくす方が実効性があるというのが西岡教授の持論。
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子ども110番の家 誘拐や暴力など、子どもを狙う事件を地域ぐるみで防ぐために、警察や地方自治体などが協力して設置を進めている緊急避難所。主に通学路付近にある商店や民家などの登録拠点にステッカーや旗を掲出し、犯罪被害に遭ったり、遭いそうになって助けを求めている子どもの保護や警察への通報などを行う。

Profile 西岡 敏成 にしおか・としなり 関西国際大学 人間科学部 教授。1976年日本大学経済学部を卒業後、兵庫県警に入職。県警本部警備課付だった2002年にワールドカップサッカー警備対策調査官も担当。明石警察署副署長、加古川警察署長、姫路警察署長などを経て2013年、警視長に昇進し、退職。同年より現職。犯罪心理の知見や危機管理のノウハウを生かした講演活動にも取り組む。
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